物語でサクッとライプニッツ『モナドロジー』『形而上学叙説』#20

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〇登場人物紹介  

黒島よしのぶ  

いつも黒色ベースの服装に黒縁眼鏡を基本装備とした渋み溢れる人物。大学の先生らしく、近くのカフェでコーヒー片手に哲学書を読んでいることが多い。  

★碧山アカリ  

趣味で哲学、文学、心理学といった人文書を読み漁っているお姉さん。黒髪セミロングに切れ目とクールな見た目だが、困っている人を見ると放っておけない性格。   

★川崎こうへい  

アカリの隣の家に住む中学生。学校や両親との関係などなど年相応の悩みをもっており、アカリが良き相談相手になっている。  

藤山リカ  

社会人一年目の新卒。やや神経質だったり社会人一年目であったりと、悩みが絶えない。カフェで偶然知り合った黒島先生によく相談ごとをもちかける。  

マークは今回のストーリーで登場する人物 

 

 

〇秩序と調和(ストーリー編) 

注意:前回の「物語でサクッとスピノザ『エチカ』#19」の続きの話になっています

 

碧山「私はスピノザの『エチカ』は、かなり好きな著作なんだけど、その後すぐにゴットフリート・ライプニッツという哲学者に興味深い批判をされるの」

川崎「へー!詳しく聞かせて!」

碧山「もちろん 今回の話で主に念頭に置いているのは、『形而上学叙説』と『モナドロジ―』ね」

書影は最新のものにしています。当ブログで参照しているのは二著作が収録されている中央クラシックス版になりますので、リンク及び後述の引用も書影の岩波文庫ではない中央クラシックス版になります。)

碧山「まずはスピノザについて確認するけど、スピノザの思想は必然性の哲学なわけよね 一切が自然法則の因果で決まっているという思想なんだから だけれど、それはある種この世界の無意味さを露呈することになっているのではないかということになるわ」

川崎「この世界の無意味さ? え、そうなの?」

碧山「例えば、「晩御飯を速く食べ過ぎたせいで、コンビニに行った」という行動は因果関係で説明はできるけど、逆に言うなら、何もかもが因果関係でしか説明できないの つまり、「その行動の意味は?」と聞かれても「そういう因果関係になってたから」以外答える術がないわけね」

川崎「あー、つまり、「そうなってたから」以外の説明ができないって意味での「世界の無意味」さか」

碧山「えぇ ライプニッツという哲学者は、ここに大きな問題を感じたの 本当にこの世界を「因果関係」でしか説明できない「無意味な世界」にしてしまって良いのかって」

川崎「なるほど確かに…昔の哲学者って本当にすごいや…アカリ姉ちゃんの話きいても全くそんな疑問が出なかったもん」

碧山「ライプニッツが天才なのは間違いないけど、彼がこのような批判ができたことには時代背景が恐らくあるわ」

川崎「どんな時代に生まれた哲学者なの?」

碧山「17世紀中頃から18世紀初頭までを生きたドイツの哲学者だけど、この時期は血で血を洗う激しい三十年戦争、つまりは、宗教戦争が終わったばかりの哲学者ね だから戦後すぐを生きた哲学者と言って差し支えないわ」

川崎「あー、かなり大変な時代を生きてたんだね…」

碧山「えぇ だからライプニッツにとって、戦争で荒れ果ててしまったドイツをどうにか立て直し、復興していくことが最重要事項なの そのせいか国の為に外交官もしている経歴があるみたい」

川崎「外交官! なんか色々やってて本当に天才なんだ!」

碧山「ここで話を戻すと、戦後ドイツの復興に重きを置くライプニッツは、国家の「秩序」、そして、宗教的な争いを「調停」するべきというキーワードが彼の思想に色濃く反映されていくわ」

川崎「「秩序」と「調和」か… だから、「因果関係」ですべてを「無意味」にしてしまうスピノザの哲学と相性が悪かった?」

碧山「まさにその通り すべてが「そうならざる負えなかった」の一言で片づけられてしまいかねないスピノザの哲学は、これから国家復興のために「秩序」と「調和」を掲げようとするライプニッツにおいて対決するしかなかったわけね」

川崎「なるほどー… じゃあ、ライプニッツはスピノザの必然性の哲学に対して、どんな思想を展開したの?」

碧山「代表的なのは、「最善世界選択説」って言われるものね」

川崎「!?!!? なに、その胡散臭い感じの説…」

碧山「実際に少し読んでみましょう」

「ところで、神のもっている観念のなかには、無数の可能な宇宙があるが、現実にはただ一つの宇宙しか存在ることができないから、あれではなく、これを選ぼうと神が決心するためには、それなりの十分な(究極的)理由がかならずある。そしてその理由は(神における目的と行為との)適合、すなわち、これらの世界がふくんでいる完全性のうち、どれがいちばんすぐれているかということにしかない。(略)これこともっとも善い世界が、現に存在している理由である。神はそれを知恵によって知り、善意によって選び、力によって生みだす。」

 

ライプニッツ『モナドロジー』、中高クラシックス、2019、21頁引用(53~55節)

川崎「・・・え、色んな世界でありえたけど、今の世界になってるのは、神が最善の世界を選んだってこと?」

碧山「その通りよ 胡散臭く感じてしまうのは分かるわ だけれど、この考え方ならスピノザの「必然性の哲学」とは反対の「可能性の哲学」が復活できるの」

川崎「だけれど、これも神様が決定しているってことなんじゃないの?」

碧山「ライプニッツの少し面白いところは、「決定」、つまり、「確実」と「必然性」を分けて考えているの スピノザなら「そうならざる負えなかった」と必然性の哲学を展開するのに対し、ライプニッツは、「他でもありえたけど、神が最善の世界を〈選択して決定した〉」ってこと」

川崎「なるほど、それで、「可能性」や必然に対する「選択」の余地を確保したのか…」

碧山「それと、この考え方ならスピノザの「無意味な世界」に対して、「意味のある世界」を提示できるの つまり「現在がこのようになっているのは、神様が最善を選択した結果です」って この「現在がそうなっていることの根拠」を「充足理由(根拠)律」って呼ぶわ」

川崎「でも、世の中は悲しいことであふれてるし、それこそライプニッツが生きた時代と国は、戦争で色んな人が悲惨な目にあってるんじゃないの? なのに、今あるこの世界が最善って少し違和感が…」

碧山「もっともな指摘ね ただライプニッツの主張と照らし合わせて、その点をどう説明するかと言うと、「それでも、それが一番マシで最善だった」って回答になるかしら この点はスピノザとも共通していることだけれど「神様=法則を完全に無視してどんなことでも出来る」って解釈にはならないの」

川崎「つまり、あくまでも数ある可能性と選択のなかでしか、最善のものを選べない?」

碧山「恐らくそう言えるわ どんな悲惨なことが今起きていても、それでもやっぱりそれが最善だったとライプニッツは考えるでしょうね」

川崎「なるほどー…」

碧山「ライプニッツの哲学は、現代の我々からすると神学的で、信じがたい哲学に感じるのは仕方ないわ だけれど、必然性による説明でなく、現在がそうであることの理由を必死に考えようとした彼の批判は知っておいてもいいと思うわ」

川崎「確かに、スピノザの哲学も凄いけど、それと対決すべく出したライプニッツの問題提起は光るものがあるように感じるね!」

〈つづく〉

〇プチ解説

ライプニッツと言えば、微分積分の発見者の一人としても有名で、同時代人のアイザック・ニュートンとどちらが先に発見したのかを論争していました。先に発見したのはニュートンだとされているようですが、現在用いられている微分積分の数式はライプニッツのものらしく、二人の天才性が垣間見えるエピソードです。また、上述の「最善世界」を神が実現するうえで重要なのが「モナド」という非物質的な原子のような概念です。ライプニッツは、神がこのモナドを操作し最善世界を選択し創造していると考えました。

 

参考文献

ライプニッツ著 清水富雄訳他『モナドロジー』『形而上学叙説』、中高クラシックス、2019

斎藤哲也編著 他『哲学史入門Ⅱ』、NHK出版新書、2024

上野修著『哲学者達のワンダーランド』、NHKブックス、2024

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