物語でサクッとジャック・デリダ『脱構築入門』(『デリダとの対話』)#12

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〇登場人物紹介  

黒島よしのぶ  

いつも黒色ベースの服装に黒縁眼鏡を基本装備とした渋み溢れる人物。大学の先生らしく、近くのカフェでコーヒー片手に哲学書を読んでいることが多い。  

★碧山アカリ  

趣味で哲学、文学、心理学といった人文書を読み漁っているお姉さん。黒髪セミロングに切れ目とクールな見た目だが、困っている人を見ると放っておけない性格。   

★川崎こうへい  

アカリの隣の家に住む中学生。学校や両親との関係などなど年相応の悩みをもっており、アカリが良き相談相手になっている。  

藤山リカ  

社会人一年目の新卒。やや神経質だったり社会人一年目であったりと、悩みが絶えない。カフェで偶然知り合った黒島先生によく相談ごとをもちかける。  

マークは今回のストーリーで登場する人物 

 

 

〇単純な思考に陥らないために(ストーリー編) 

川崎「あかり姉ちゃん、やっぱり僕は道徳的にダメ人間なのかもしれない!!!(泣)」

碧山「なんでよ、道徳の話は前回もやったでしょ」

川崎「そうなんだけど、さすがに今回はちょっとヤバい気がして… もしかすると僕は、戦争を肯定しちゃうとんでもない人間かもしれないんだ!(泣)」

碧山「随分と物騒な話ね 何があったの? 」

川崎「学校の平和学習の時間に、「どうして戦争がダメなのか?」っていうテーマで話合いをしたんだ…」

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生徒A「戦争は関係のない人間を傷つけるし、悲しませることになるから駄目だ!」

生徒B「貴重な文化財とかも燃えてしまったりするよね」

生徒A「そうそう! 戦争なんてきっと、こんなことも分からないバカのすることなんだよ! それに巻き込まれちゃうわけだから、ロクなことが起きない!」

生徒B「戦争は何がなんでも絶対にやっちゃダメなことだね!」

生徒C「で、でもさぁ… もし、自分たちが戦争する気がなくても攻められちゃったら、闘う方がいいんじゃ…」

生徒A「お前何言ってんの!? 戦争賛成派ってこと!?」

生徒C「そうじゃないよ! でも、攻められちゃったりしたら、どうしようもない気が…」

生徒A「それって、戦争反対じゃないんだから、賛成ってことだろ!?」

生徒C「いや、賛成しているわけじゃないよ! でも、完全に反対するのは若しかしたら違うのかもって…」

生徒A「どっちなんだよ、賛成か反対か、ハッキリしろよ!」

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碧山「なるほどね、攻められた場合のことを想定した彼の考えに、あんたは納得がいってるわけだ」

川崎「うん… だから、僕は戦争を賛成している極悪非道中学生なのかもしれないんだ…」

碧山「極悪非道中学生って(苦笑) 戦争に完全反対しない人間は、全員戦争賛成派っていうのは、おかしいとは思わない?」

川崎「ん~… おかしいとは思うんだけど、うまくそれが説明できないし…」

碧山「おかしいと感じるなら充分よ 要はこれって、賛成か反対かどちらかを選べっていう二者択一的な思考ね そして、二者択一的な思考は両極的なものになりがちだから、ときにおかしな結論に辿り着いてしまう場合があるわ」

川崎「確かに、二者択一的なものの考えだね! でもそれって普通じゃないの? 」

碧山「日常にあふれてる思考法だけれども、限界もあるわ だから、「脱構築的な思考」っていうやつが必要ね」

川崎「何それ…」

碧山「二者択一的な思考とは真逆の思考法ー 選択肢から何かを選ぶというより、選ばず、どっちつかずな状態をキープする思考法とでも言えばいいかしら」

川崎「え、全然わからないよ! もっと詳しく聞かせて!」

碧山「そうね~、脱構築的思考において最初にやるのは、二項対立の発見ね 今回の例でいくなら、「平和と戦争」になると思うわ」

川崎「対立してる二つのものってこと? 「善と悪」とか?」

碧山「その通り それこそ、「平和と戦争」も片方が善で、他方が悪とされているものね だけど、その彼が想定して言ったように、どこかの国が攻めてきた場合、応戦しないと「平和=善」が維持できない状況があるわけ」

川崎「言われてみれば確かに、攻められてきちゃったら平和どころじゃない! 平和を少しでも維持するには、応戦しなくちゃいけないから、ある意味「戦争=悪」が必要になる…?」

碧山「そうなるわね 「戦争はダメだ、平和が何よりも大切」というこの主張は正しいと私も思うわ だけど、そんなことはお構いなしに攻撃してくる国というのは現実にある もし自分たちが攻められる側だった場合、「平和が何よりも大切だから戦争しない」と言って無抵抗のままでいるなら、まさにそのことによって「平和」が潰されてしまうはめにもなるわ」

川崎「ほんとだ… まさに二者択一的な思考の限界をひしひしと感じるよ」

碧山「これが脱構築的思考ね 注意してほしいのは、単に「悪」「マイナスの側」、今回だと「戦争の側」に肩入れすれば良いってものじゃないってこと あくまでも、「平和」が大事という点は重要だし、目的はものの見方をアップグレードすることよ」

川崎「なるほど、「平和」がなにより大事… だけど、その為には真逆の「戦争」的な行いに加担せざるを得ないときもある… 確かに、どっちつかずな思考だね」

碧山「だから、「平和と戦争」「善と悪」といった構造がある場合、単に後者の側を使って、前者の側を倒そうとするだけじゃだめで、ジワジワと少しづつ揺さぶるかのように批判や思考を展開させる、それが脱構築の運動よ」

その運動〔=脱構築の運動〕とはつまり、文化の、制度の、法律体系の諸規定を絶え間なく疑い批判することなのです。しかも、それらを破壊したり、たんに無効にしたりするためではなく、むしろ正義に対して正義であり、正義としての他者へのこうした関係に敬意を払うために、疑い批判するのです。

デリダ&カプトー『デリダとの対話    脱構築入門』、法政大学出版局、2004、25頁引用 〔〕は投稿者

碧山「これが実際のデリダの言葉ね 『デリダとの対話 脱構築入門』っていう彼の講演録を本にしたものになっているわ」

川崎「じゃあ、今日の発言で非難されていた彼は、脱構築的なものの考え方ができていたってこと? 」

碧山「平和が大事だとしつつも、そのために応戦せざるを得ない状況があるという点を踏まえていたとするなら、その可能性はあるわ その認識から何か新しい視点や物の見方を導入できれば、更に良しね」

川崎「すごいや… 明日この話してあげよっと」

碧山「えぇ 単純な二者択一的な思考でなく、こういった複雑な思考ができるのは素晴らしいことよ 明日、励ましてあげるといいわ」

 

〇プチ解説

「脱構築」という言葉はジャック・デリダが有名ですが、少し前の哲学者マルティン・ハイデガーの主著『存在と時間』に由来して出来た言葉です。ハイデガーであれ、デリダであれ共通しているのは、単に逆張りをして伝統的な哲学や制度を転倒させようとしていたわけではないという点です。脱構築的な思考は二項対立を発見し、逆張りをしつつも、最終的には宙づりの状態を目指して、新しいものや「来たるべきもの」を目指す為の運動です。

参考文献

千葉雅也『現代思想入門』、講談社現代新書、2023

デリダ&カプトー著 高橋透他訳『デリダとの対話 脱構築入門』、法政大学出版局、2004

守中高明『脱構築 思考のフロンティア』(電子書籍版)、岩波書店、2018

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