物語でサクッとルネ・デカルト『方法序説』#13

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〇登場人物紹介  

★黒島よしのぶ  

いつも黒色ベースの服装に黒縁眼鏡を基本装備とした渋み溢れる人物。大学の先生らしく、近くのカフェでコーヒー片手に哲学書を読んでいることが多い。  

碧山アカリ  

趣味で哲学、文学、心理学といった人文書を読み漁っているお姉さん。黒髪セミロングに切れ目とクールな見た目だが、困っている人を見ると放っておけない性格。   

川崎こうへい  

アカリの隣の家に住む中学生。学校や両親との関係などなど年相応の悩みをもっており、アカリが良き相談相手になっている。  

★藤山リカ  

社会人一年目の新卒。やや神経質だったり社会人一年目であったりと、悩みが絶えない。カフェで偶然知り合った黒島先生によく相談ごとをもちかける。  

マークは今回のストーリーで登場する人物 

 

 

〇「考える」とはどういうことか?(ストーリー編) 

いつものカフェにて

藤山「黒島先生、「考える」ってなんですか?」

黒島「これまた、唐突ですね(汗)」

藤山「すみません(苦笑) 実は、会社に仲のいい友達がいるんですけど、よく上司に「筋道をしっかり立てて考えなさい」って怒られてるみたいで」

黒島「「筋道をしっかり立てて考えなさい」…ですか」

藤山「はい… だけどその子からするとちゃんと出来ているつもりだから、どう改善したらいいか分からない状態らしくて… 私もどうアドバイスしてあげればいいのか分からずって感じです…」

黒島「なるほど… 正直なところ私もどうアドバイスすればいいのかは、分かりません その上司の方が具体的にどの点を指摘しているかもわかりませんので… それでも毎度の如く、論理的思考に長けた哲学者にヒントをもらってみるのはアリですね(笑)」

藤山「それを期待して今日もお声がけさせていただきました!(笑) 今回はどんな哲学者の考えが役に立ちそうですか?」

黒島「今回のケースだと、ルネ・デカルトという人が書いた『方法序説』という本の内容が役に立つかもしれません」

藤山「デカルトは聞いたことありますけど、『方法序説』…っていうのは?」

黒島「少し変わったタイトルの本にも聞こえますが、それは省略されているからで、正式名称は「理性を正しく導き、学問において真理を探究するための方法序説」になります なので、物事を正しく考えて、捉えるための方法論の書ですね」

藤山「おー!確かに今回の件にピッタリな内容ですね! 実際、どんなことが書かれてあるんですか?」

黒島「まず、第一部で当時のあらゆる諸学問について言及しているのですが、どれもあやふやな感じがして気に食わないというようなことを言っています(笑) ただその中でも、数学だけはしっかりしていて、確実性が高いので、数学的なものの考え方を重宝する方向に向かいます」

藤山「たしかに、数学は「2+5」なら「7」ってしっかり答えが決まってますからね~」

黒島「その流れから、思考するうえでの「四つの規則」をデカルトは打ち立てます 主に、「明証性の規則」「分析の規則」「総合の規則」「枚挙の規則」と呼ばれているものです」

藤山「・・・え? 全然、分からないんですけど(困惑)」

黒島「詳細を見ていきましょう まずは「明証性の規則」ですが、これは誰が見ても明らかなものから考え始めましょうということです」

藤山「ん? 「始めましょう」ってことは、四つの規則って順番があるんですか?」

黒島「その通りです なので、最初は確実なことから考え始めるという意味で「明証性の規則」が先頭にきます」

藤山「「確実なことから考え始める」、 言われてみれば大事なことかも… では後の残りは?」

黒島「次は、「分析の規則」ですが、これは問題を一つ一つ細かく分割していきましょうということです」

藤山「なるほど、一つの問題には小さな問題が積み重なっているはずだから、それを整理していきましょうというニュアンスですか」

黒島「えぇまさに そして分割できたら、次はそれらの問題を解いていくわけですね 相応の順序で、若しくは、解けるところから解いていくことが推奨されます それが、「総合の規則」と呼ばれるものですね」

藤山「たしかに、数学的というか物凄く論理的なものの考え方に聞こえますね」

黒島「デカルトの手法は時に、「演繹法」と呼ばれたりもします そういう意味でも、数学的かもしれませんね あと、最後の「枚挙の規則」ですが、これは、見落としがないかチェックしましょうということです」

藤山「あー、ちゃんと最後が見直しの「枚挙の規則」っていう点もちゃんと順番に意味がある感じがしますね!」

黒島「デカルトは、この四つの規則を活用して、自らの哲学を打ち立てた人ですので彼の著作を読んでいくだけでも、それなりの思考法が学べるかもしれません 例えば、有名な「われ思う、ゆえに我あり」って言葉がありますよね?」

藤山「はい、学校の授業で覚えさせられたので!」

黒島「デカルトがなぜいきなりこんなことを言い始めたかというと、それは「明証の規則」に沿って自らの哲学を展開しようとしたからです」

藤山「なるほど! 何も知らずにこの言葉だけ聞くと、アレコレ考えた結果辿り着いたゴールのように見えますけど、実際はデカルト哲学のスタートを切る言葉ってことですか!」

黒島「まさにその通りです! デカルトは「明証性の規則」に該当するような確実な事柄を探すため、たくさんの事柄を疑います 例えば、自分の身体感覚は錯覚するから確実ではなく、この現実も夢だと疑えてしまうから確実ではないという風に」

藤山「なかなか狂気的ですね… 何もかも不確実なことになっちゃいそう…」

黒島「狂気的ですね(苦笑) ですが、その懐疑の末にやっと確実なものを発見します」

このようにすべてを偽と考えようとする間も、そう考えているこのわたしは必然的に何ものかでなければならない、と。そして、「わたしは考える、ゆえにわたしは存在する〔ワレ惟ウ、故二ワレアリ〕というこの真理は、懐疑論者たちのどんな途方もない想定といえども揺るがしえないほど堅固で確実なのを認め(略)哲学の第一原理として、ためらうことなく受け入れられる、と判断した。」

デカルト著『方法序説』、岩波文庫、2019、46頁引用

黒島「これが俗に言われる「我思う、故に我あり」という言葉の登場です」

藤山「単に暗記して覚えてるだけじゃ知る由もない、ちゃんと深い思考を伴なった言葉だったんですね」

黒島「そういうことになります 確実な「我」の発見から更に、神の存在証明や物の認識プロセスの解明などの哲学的考察を展開していきます さて、本書を通してアドバイスが出来そうなことはこれぐらいですね 何かお役に立てたならよかったのですが」

藤山「とっても役に立ちましたよ! …主に私が(笑) とりあえず、今日聞いた話を参考にして友達にもう一度話してみたいと思います!」

〈つづく〉

 

〇プチ解説

デカルトの『方法序説』は六部構成100ページ程のデカルトによるデカルト哲学の入門書です。ここで取り上げた「四つの規則」は第二部の話で、有名な「我思う、故に我あり」は第四部で登場します。その間の三部はデカルトの倫理学的な主張がされており、確固たるものが判明するまでは①その国の法律や慣習に従うこと②一度選択したことは突き進んでみること③変えることのできるもの(=自分)と変えることのできないものの認識をしっかり持っておくこと、といった事柄が主張されています。

 

参考文献

デカルト著 谷川多佳子訳『方法序説』、岩波文庫、2019

藤田正勝著『理解しやすい倫理』、文英堂、2015

 

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