物語でサクッとロラン・バルト『批評と真実』#15

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〇登場人物紹介  

★黒島よしのぶ  

いつも黒色ベースの服装に黒縁眼鏡を基本装備とした渋み溢れる人物。大学の先生らしく、近くのカフェでコーヒー片手に哲学書を読んでいることが多い。  

碧山アカリ  

趣味で哲学、文学、心理学といった人文書を読み漁っているお姉さん。黒髪セミロングに切れ目とクールな見た目だが、困っている人を見ると放っておけない性格。   

川崎こうへい  

アカリの隣の家に住む中学生。学校や両親との関係などなど年相応の悩みをもっており、アカリが良き相談相手になっている。  

★藤山リカ  

社会人一年目の新卒。やや神経質だったり社会人一年目であったりと、悩みが絶えない。カフェで偶然知り合った黒島先生によく相談ごとをもちかける。  

マークは今回のストーリーで登場する人物 

 

 

〇(ストーリー編) 

藤山「(とりあえずネットで調べて読書会なるものに参加してみたけど……)」

参加者A「その解釈はおかしい!普通に考えたら、そうは考えられない!」

参加者B「そっちこそ何を言ってるんですか! この本の真の意味は、私の考えで間違いありません!」

藤山「(なぜか喧嘩してる……)」

司会「藤山さんは、どちらの言い分が正しいと思いますか?」

藤山「え、あ、そうですね… どちらの言い分も分かる気がして、どっちが正しいとか言えるのかなって思いました…実は両方正しいのでは的な?」(オドオド)

シーーーン

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藤山「ってことがあったんですよ…」

黒島「それは何と言うか災難でしたね」(汗)

藤山「読書会ってあんなに殺伐としているものだったなんて思いもしませんでした…」

黒島「今回に関しては、藤山さんが行かれた読書会がかなり特殊だったというか、巷の読書会はそんな「意味の押しつけ合戦」のような構図にはならないんですけどね」

藤山「今回は運が悪かったてことですか?」

黒島「そうだと思います 彼らが真剣に本と向き合ってる証拠でもありますが、少し暴力的な側面も否めない言動ではあるかなと」

藤山「なるほど… 私の発言のあと、皆に呆れられてしまったんですけど、これは私が悪かったんでしょうか?」

黒島「そんなこと無いと思いますけどね ロラン・バルトという人は、『批評と真実』という本のなかで、意味は複数共存しうると主張しています」

藤山「意味が複数共存?」

黒島「例えば本書で、「日記」というものの意味について2人の思想家の考えを紹介しているのですが、その2人の考えはどちらが正しいかではなく、両方正しいとバルトは指摘しています」

 

藤山「つまり、意味が複数共存している!」

黒島「その通りです なので、読書会での藤山さんの指摘はかなり、バルト的な発想だったのかなと思われます」

藤山「じゃあ、そこまで変な発言だったわけじゃないんですね!良かった!」

黒島「その発想自体は変じゃないと思いますよ この点をよく表した引用が以下のものです」

「作品は、構造上、いくつもの意味を同時的に持つのであって、作品を読む人々に欠陥があるのではない。」

ロラン・バルト著『批評と真実』、みすず書房、2006、75頁、引用

黒島「作品が作品である以上、意味が複数存在するのは当然のことだというわけですね」

藤山「なるほど、なるほど 構造上どうしてもそうなってしまうものだと… 何だか新鮮な話ですね!」

黒島「ある意味、学校の国語で習ってきた内容のものと逆の主張をバルトはしているわけですから、新鮮に感じるのも無理はありません 但し、注意点として、意味が複数あるからと言って、あまりに適当なことを主張するのは違います

藤山「確かに、何を言ってもOKってされてしまうと、滅茶苦茶な発言までも容認しないといけないことになりますよね」

黒島「おっしゃる通りです 意味は複数存在しますが、それは決して適当に読んで、何かをでっち上げていいことの理由にはならないわけです」

藤山「そういう意味では、私が行った読書会の人たちはとってもとっても真面目だったのかもしれないですね」

黒島「真面目さが転じて起こしてしまった事態と言ったところでしょうか その姿勢そのものは決して排除すべきではありませんね やはり少しでも妥当な意味を探究しようとすることは必要ですから」

藤山「だけど、そこで見つかるかもしれない「意味」は複数あるかもしれない!ってことですよね!」

黒島「まさに! 話を戻しまして、今回の一見について私から言えるのは、何事も合う合わないがあると思うので、引き続き他の読書会など参加されてみてはと思います」

藤山「そうですね! 他にも色々あるようなので、自分に合った読書会を見つけて行ければなと思います!」

 

〇プチ解説

ロラン・バルト『批評と真実』の執筆背景には、「ラシーヌ論争」と呼ばれる劇作家のジャン・ラシーヌの解釈をめぐる旧批評と新批評の対立がありました。バルトは、新批評の側の立場であり、これは「意味の複数性や共存」に重きを置く思想の人たちです。他方、旧批評側を代表するレーモン・ピカールは、絶対的な一つの意味を擁護する立場であり、その点においてバルトを批判します。『批評と真実』の第一部は、ピカールへの応答という側面があり、爽快な議論を読むことができます。

 

参考文献

ロラン・バルト著 保苅瑞穂訳『批評と真実』、みすず書房、2006

石川美子著『ロラン・バルト 言語を愛し恐れ続けた批評家』、中公新書、2015

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