物語でサクッと九鬼周造『「いき」の構造』#14

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〇登場人物紹介  

黒島よしのぶ  

いつも黒色ベースの服装に黒縁眼鏡を基本装備とした渋み溢れる人物。大学の先生らしく、近くのカフェでコーヒー片手に哲学書を読んでいることが多い。  

★碧山アカリ  

趣味で哲学、文学、心理学といった人文書を読み漁っているお姉さん。黒髪セミロングに切れ目とクールな見た目だが、困っている人を見ると放っておけない性格。   

★川崎こうへい  

アカリの隣の家に住む中学生。学校や両親との関係などなど年相応の悩みをもっており、アカリが良き相談相手になっている。  

藤山リカ  

社会人一年目の新卒。やや神経質だったり社会人一年目であったりと、悩みが絶えない。カフェで偶然知り合った黒島先生によく相談ごとをもちかける。  

マークは今回のストーリーで登場する人物 

 

 

〇魅力(粋)について考える?(ストーリー編) 

夏休み中のお盆にて、リビングでダラダラと過ごす碧山と同じくSNSを眺めている川崎

流れてくるSNSは、彼女と海や祭りを楽しむ学友たちの楽しそうな写真

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川崎「僕も彼女が欲しい! 海や祭りに行きたい!」

碧山「んー、頑張れ〜」

川崎「めっちゃ適当!? そんなダルそうにしないで、彼女の作り方とかモテる方法とか教えてよー!」

碧山「なんで私に聞くのよ でも、そういやあんたこの前、モテたいとか言ってたわね

川崎「あ、聞かれてたんだ… まぁやっぱ誰しもモテたいじゃん?」

碧山「そうね〜、直接関わるかは分からないけど、魅力に関するいい本はあるわよ」

そう言って九鬼周造『「いき」の構造』をだす

川崎「「いき」? 息が何か関係あるの?」

碧山「「ブレス」の「いき」じゃなくて、「粋がいい」とかの「いき」よ この本はその「粋」というものについて考察されているわ」

川崎「あ~!今は全然聞かないけど、偶にドラマや漫画とかで聞くよね!魅力の方の「いき」か! で、その「粋」って具体的になに?」

碧山「本書の九鬼周造による簡略した定義では、このように説明されているわ」

垢抜けして(諦)、張りのある(意気地)、色っぽさ(媚態)

九鬼周造『「いき」の構造』、講談社学術文庫、51頁引用

川崎「えーと、垢抜け、張り、色っぽさ…」

碧山「カッコに書いてあるように、それぞれ「諦め」「意気地」「媚態」に対応しているわ 本書の順に即して、「媚態」から説明していくわね、といっても漢字表記通り「媚びる態度」が「媚態」よ」

川崎「なるほど…… 媚びる態度?」

碧山「二元性の維持ね ここは引用を挟んだ方がいいわ」

媚態は異性の征服を仮想目的とし、目的の実現とともに消滅の運命をもったものである。

前掲書、39頁引用

碧山「つまり、くっつくことを目的として行動するも、くっついてしまうと消えてしまうもの、それが媚態ね だから、「粋」を構成したいなら、くっついて消えてしまわないように二元性、まぁ二元性って言葉が難しければ「緊張状態」を維持することが大事ってことになるわ」

川崎「な、なんか、ものすごく高度テクニックな気が…(困惑)」

碧山「次に、「意気地」ね 今言った二元性を保つためのエネルギーになっているもので、日本の武士道精神と密接に関わっているわ」

川崎「「意地を張る」の「意地」的な感じ?」

碧山「近いニュアンスだと思うわ そして、最後の「諦め」は「垢抜け」に対応したものだけど、要は辛い世の中を生きてきたうえで身につくある種の「悟り」の境地ね だから、こっちは物凄く仏教的よ」

川崎「なるほど、なるほど… え、薄々感じてたけど中学生の僕に「粋」は早いのでは…」

碧山「残念だけどそうね」

川崎「そ、そんなー! じゃあ、意味ないじゃん(悲)」

碧山「まぁそう言わないで 今みてきた「いき」は、九鬼の説明によると「上品と野暮」「甘みと渋み」の真ん中にあるって説明をされているわ」

川崎「「上品と野暮」の中間、「甘みと渋み」の中間ってこと?」

碧山「そのとおり そのことを表した有名な図形があるわ」

碧山「「甘みと渋み」は、個人の好みによるものだから非価値的なものとして、そして、「上品と野暮」は価値的なもの、つまり、「上品」がよいもので、「野暮」がよくないものだと言っているわ」

川崎「確かに、確かに」

碧山「そして、野暮が過ぎてしまうと「いき」と対局にある「下品」が顔を出す もちろんこの「いきと下品」も価値的なもので、さっきと同様「いき」がよいもので、「下品」が悪いものね」

川崎「「下品」はちょっとやだなー…」

碧山「まぁ、少なくともモテる要素ではないわね だから、「いき」になれなくてもせめて、「下品」や「野暮」にならないようにだけ心がけてみなさい それが理解できるだけでも充分今回の話は役に立ったんじゃないかしら?」

川崎「そうだね!「清潔感が大事」とかよく聞くけど、この辺の話とも深く関わってそう!ありがと!」

〈つづく〉

〇プチ解説

九鬼周造は、西洋に渡りベルクソンやサルトルになど師事を受けたうえで、主著となる『「いき」の構造』や『偶然性の問題』を書いた日本の代表的哲学者です。今回取り扱った『「いき」の構造』は、「粋」という日本固有の言葉・意味を考察することで、日本人について考察しようとした民俗学的目的をもった本でもあります。現に、「いき」の構成要素に仏教(諦め)や武士道(意気地)的なものが挙げられている点からも「粋」が日本特有の感性であることが読み取れます。

参考文献

九鬼周造著 藤田正勝注釈『「いき」の構造』、講談社学術文庫、2011

田中久文『九鬼周造』、講談社学術文庫、2022

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