物語でサクッとハンナ・アーレント『人間の条件』#28

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〇登場人物紹介  

★黒島よしのぶ  

いつも黒色ベースの服装に黒縁眼鏡を基本装備とした渋み溢れる人物。大学の先生らしく、近くのカフェでコーヒー片手に哲学書を読んでいることが多い。  

碧山アカリ  

趣味で哲学、文学、心理学といった人文書を読み漁っているお姉さん。黒髪セミロングに切れ目とクールな見た目だが、困っている人を見ると放っておけない性格。   

川崎こうへい  

アカリの隣の家に住む中学生。学校や両親との関係などなど年相応の悩みをもっており、アカリが良き相談相手になっている。  

★藤山リカ  

社会人一年目の新卒。やや神経質だったり社会人一年目であったりと、悩みが絶えない。カフェで偶然知り合った黒島先生によく相談ごとをもちかける。  

マークは今回のストーリーで登場する人物 

 

 

〇(ストーリー編)

前回の続き

投稿を編集 “マックス・ヴェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』#27” ‹ ABATARO OFFICIAL SITE — WordPress

 

藤山「働くことは、当然のものじゃないっていうことは理解できました  まぁそれでもすぐに仕事を辞めるわけには、いかないですよね… それを良いことに働く時間が多くなるのは、辛いです」

黒島「それは、そうですね 私もついつい余計な仕事を押し付けられたり‥‥」

藤山「先生もですか… このままだと私たちの人生は、働くことで埋め尽くされてしまう…」

黒島「まったくです…」

藤山「そもそも私たちは、働く以外に何をして生きればいいのかすら、あやふやに…」

黒島「それは、危険な状況ですね… ハンナ・アーレントという思想家は、単に労働だけしているのは、「労働する動物」と言って、批判しています」

藤山「やば… まさに、「労働する動物」になりかけてます」

黒島「これは、彼女の主著である『人間の条件』でされている話ですね 私たち人間は、「労働」「仕事」「行為(活動)」の三つに関わって生きているはずだけど、その三つのうち「労働」ばかりしている人間を「労働する動物」と言っています」

 

藤山「「労働」と「仕事」…え、同じものでは、ないんですか?」

黒島「彼女は、「労働」と「仕事」を区別しています 「労働」は、生命維持に関わる営みです なので、「生きるため」の行い全般です」

藤山「なるほど、「労働」の方は、腑に落ちますね 「仕事」の方は?」

黒島「「仕事」は、端的に言って「物造り」や「創作」のことです 確かに、人間の世界を見渡してみると色んな人が作った「物」で世界は、溢れています 分かりやすい例を出すと、文章を書いて本にするのが「仕事」で、それを売って生きるためのお金を得るのが「労働」です」

藤山「なんとなく、理解できました では、最後の「行為」は?」

黒島「アーレントにおいてもっとも大切なのが、この「行為」で、翻訳によって「活動」とも言われています これは、種々異なる人たちと行う「議論・対話」といった言論活動のことです」

藤山「言論活動ですか…」

黒島「そう難しく捉え過ぎないでください 今こうやって私と藤山さんが話しているのが、彼女の言う「行為」「活動」ですので、身近に一応あるものです笑」

藤山「あ!!! これもその「行為」に入るんですね!」

黒島「えぇ ポイントは、異なる人同士で問題について考え、対話・議論しているということなので 今まさに「働く」というテーマで言論活動しているわけです」

藤山「これも物凄く腑に落ちました!」

黒島「しかし、もし藤山さんが、あまりにも労働環境が過酷で、一日中家で寝てないと体力がもたない…なんてことになると、この「行為」が不可能になってしまうわけですね」

藤山「たしかに…」

黒島「また、私たちが異なる人同士であるという部分も重要で、だからこそ、「対話」「議論」を行うわけです」

藤山「同じだったら、話す必要がないってことですか」

黒島「その通りです そして、様々な問題と遭遇する我々の生活において、この言論活動という意味での「行為」「活動」は、重要になってきます」

言論や行為のない生活は、(中略)世界との関係においては、文字どおりの死んだ生活である。それは、もはや人間の生活ではない。彼らは人々の間で生きていないからである。

ハンナ・アレント著 牧野雅彦訳、『人間の条件』、講談社学術文庫、2023、323頁引用

黒島「このように、やや強い言葉を用いて主張しています」

藤山「人間の生活に必須なわけですね…」

黒島「えぇ そうでないと、ユダヤ人である彼女が経験したホロコーストといった歴史的な過ちをしかねない、と恐らくアーレントは、言いたいのでしょう」

藤山「なんか、こんなこと言っていいのか分からないですけど、ほんと働いてるだけってのも考えものですね」

黒島「その通りです 「労働」することを軽視するわけではないですが、その比率が強すぎて社会問題などに対する関心や、そのことについて考える場やきっかけまで消失してしまうと、社会は恐らく怖い方向にはしりかねません」

藤山「今先生との場がとっても大切なことなんだなと噛みしめています…笑」

〈つづく〉

 

〇プチ解説

『人間の条件』で探究の目的に据えられていることは、「人間な何をして、生活を営んでいるのか」ということです。それが、何なのかというと「労働」「仕事」「行為(活動)」の三つから成る「活動的生活」です。なので、本書は、この三つの分析を行っている著作ですが、なかでも大切なのは、「行為(活動)」です。その大切さは、物語を通して説明しましたが、その中で「種々異なる人たち」で行われるという点も強調すべき点で、このことを「複数性」という概念を用いて、アーレントは説明しています。

 

参考文献

ハンナ・アレント著 牧野雅彦訳、『人間の条件』、講談社学術文庫、2023

戸谷洋志『すごい古典入門-アーレント『人間の条件』-なぜ働かなきゃいけないの?』、中央公論社、2026

牧野雅彦『今を生きる思想 ハンナ・アレント 全体主義という悪夢』、講談社現代新書、2022

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