物語でサクッと浅田彰『構造と力』#7 

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〇登場人物紹介  

★黒島よしのぶ  

いつも黒色ベースの服装に黒縁眼鏡を基本装備とした渋み溢れる人物。大学の先生らしく、近くのカフェでコーヒー片手に哲学書を読んでいることが多い。  

碧山アカリ  

趣味で哲学、文学、心理学といった人文書を読み漁っているお姉さん。黒髪セミロングに切れ目とクールな見た目だが、困っている人を見ると放っておけない性格。   

川崎こうへい  

アカリの隣の家に住む中学生。学校や両親との関係などなど年相応の悩みをもっており、アカリが良き相談相手になっている。  

★藤山リカ  

社会人一年目の新卒。やや神経質だったり社会人一年目であったりと、悩みが絶えない。カフェで偶然知り合った黒島先生によく相談ごとをもちかける。  

マークは今回のストーリーで登場する人物 

 

 

〇転職する勇気(ストーリー編) 

藤山リカの勤める会社にて 

藤山「今日は定時退勤だー!」 

同僚「リカちゃん、お疲れ~! ちょっと悪いんだけど帰り道相談乗ってくれない?」 

藤山「お疲れー!いいよー!ちょっと待っててね~」 

帰り道 

藤山「なるほど…転職したいけど、辞める決断をするのも不安だと…」 

同僚「うんー…転職失敗したら将来が悲惨なことになりそうで怖いし…でも、今やってる仕事は想像してたのと違って辟易としてきてるし…」 

藤山「私でもその状況なら困り果てて、結局何もできないかもしれない…(どうしよう、何もいいアドバイス思い浮かばないー!)」 

同僚「ごめんね、いきなりこんな相談しちゃって!ちょっと話聞いてほしかっただけだから全然気にしなくていいからね!」 

藤山「ありがと!なんか逆に気を遣わせちゃったね笑」 

同僚「全然だよー!じゃ、わたし駅あっちだから!」 

藤山「お疲れ~!またなんでも相談してね~!」 

――――――― 

 

藤山「(上手いこと相談のってあげられなかったな~、黒島先生ならどう返答したんだろう)」 

そんなことを思いながら書店に立ち寄ってから帰宅することにした 

藤山「今日も哲学書コーナーに行って、物色してみよっと」 

そう独り言を呟き行ってみると、かなり大きめに面陳列されている本がある 

藤山「な、なにこれ…有名な本なの? 初刊から40年ついに文庫化…」 

??「はい、とっても有名な本ですよ」 

藤山「え!? あ、黒島先生!!!」 

黒島「こんばんは、藤山さん 私もちょうどその本を買いにきたんです」 

藤山「この『構造と力』って本ですか?」 

 

 

黒島「はい 私も学生の頃読みましたが、是非今回の文庫化を機に合わせて再読してみたくなりまして 多分私と同じような人が今この本を買って、それで流行ってるんだと思いますよ」 

藤山「なるほど、だからこんな目立つように陳列してあるんですね! どんな内容の本なんですか?」 

黒島「そうですねー、とても一言では言えないのですがー、「あちこちに動きまくれ」って本ですね」 

藤山「あちこちに動きまくれ!? じゃあ転職した方がいいですか!?」 

黒島「え、て、転職ですか(困惑) そうですねー、この本に即すなら、今の環境にがんじがらめにされているぐらいなら、転職したりして、アレコレやってみろということになりますがー…転職されたいんですか?」 

藤山「あ、ごめんなさい、私じゃなくっで私の同僚の話なんです!丁度さっき相談されたばかりなんですが、上手に返事してあげられなくて(汗)」 

黒島「なるほど、そういうことでしたか その同僚の方はどうして転職されたいのですか?」 

藤山「想像してた仕事と違ってたらしく、もう嫌々仕事をやっているようなんです ただ、転職したいけど、お金や転職の失敗を考えると躊躇してしまう…そんな感じみたいですね」 

黒島「転職したい方なら誰もが一度は考える悩みですね どうしても転職の判断は当人がするしかないですが、もし転職をすると決めたのであれば、この本はとっても勇気を与えてくれる本かもしれません」 

藤山「あちこちに動くことを推奨しているからですよね? でも何でそれを勧めてるんですか?」 

黒島「今の私たちの社会は、人に迷惑をかけない限り自由で色んなことを望んでやっているように見えますが、実はそうではなく、私達の欲望が一定方向に走らされている可能性があると本書では指摘されています」 

藤山「欲望が一定方向に走らされている? なんか馬の前に人参を吊るして、ずっと走らせる的なアレを想像しちゃいました」 

 

黒島「それは、素晴らしい例ですね!まさに仰るようなイメージに近く、馬が私たちであるとするなら、人参に当たるのが本では貨幣になります! その同僚の方も突き詰めれば貨幣に対する不安から転職をしたいという別の欲望が妨げられているわけですからね」 

藤山「たしかに! じゃあ、あちこちに動けと言うのは、貨幣だけを見るなということですか? 」

黒島「そうですね、或いは、一つのものだけに縛られるなというニュアンスでしょうか~ さっきの馬の例でいうなら、人参だけでなく、走りながら草や木、山などあちこちに目移りして走ってごらんなさい、と言ったところだと思います」 

藤山「なるほど、大自然をあちこちに走る馬ですかー」 

黒島「そして、あちこちに走るためには、草原や砂漠といった広い場所でないとできませんね 少なくとも室内ではできませんので、浅田はこのようなことを言っています」 

真に遊戯するためには外へ出なければならない(略)常に外へ出続けるというプロセス。それこそが重要なのである。

(浅田彰『構造と力』、勁草書房、2006、226-227頁引用) 

黒島「逆に外に出ようとしない、内に閉じこもるというのは、今ある秩序にがんじからめになるに等しく、浅田がここで批判していることになりますね」 

藤山「な、なんかすごい本ですね!折角なのでこの本買ってみます!」 

黒島「本書は全体としては難解な本ですが、「序に変えて」という章は一般向けに書かれてあり、本書のエッセンスが詰まっている部分ですので、まずはそこを熟読してみるといいと思いますよ」 

そういって自分の分と藤山の分の『構造と力』をもってレジに向かう黒島であった 

〈つづく〉 

〇プチ解説 

欲望を一定方向に走らせるこの仕組みを本書では、ドゥルーズ+ガタリにならって「公理系」と呼びます。近代資本制はこの「公理系」による秩序統治を特徴とするもので、近代以前とは全く異なると主張されています。また、浅田はこの一定方向に走らされる近代の呪縛とも言うべきこのシステムに対して、多方向に走れという意味で「リゾーム」※という概念を引き合いに出し、リゾーム的な生き方を推奨します。 

※浅田彰『構造と力』、勁草書房、2006によるリゾームの図(236頁) 

〇参考文献 

浅田彰『構造と力』、勁草書房、2006 

浅田彰『逃走論』、ちくま文庫、1986

佐々木敦『ニッポンの思想』、ちくま文庫、2023 

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