〇登場人物紹介
黒島よしのぶ
いつも黒色ベースの服装に黒縁眼鏡を基本装備とした渋み溢れる人物。大学の先生らしく、近くのカフェでコーヒー片手に哲学書を読んでいることが多い。
★碧山アカリ
趣味で哲学、文学、心理学といった人文書を読み漁っているお姉さん。黒髪セミロングに切れ目とクールな見た目だが、困っている人を見ると放っておけない性格。
★川崎こうへい
アカリのお隣の家に住む中学生。学校や両親との関係などなど年相応の悩みをもっており、アカリが良き相談相手になっている。
藤山リカ
社会人一年目の新卒。やや神経質だったり社会人一年目であったりと、悩みが絶えない。カフェで偶然知り合った黒島先生によく相談ごとをもちかける。
★マークは今回のストーリーで登場する人物
〇本をたくさん読むのは良いことなのか?(ストーリー編)
川崎「なんだか押しつけがましくて窮屈だなー…」
そう言って頭を抱える中学生の川崎こうへい
回想
母「あんた、スマホばっかりいじってないで、たまには読書しなさい たくさん本を読んでるといいことあるんだから」
と言われ、また学校では
現代文の先生「学生のあいだは、たくさん本を読むように!夏休みの宿題にも読書感想文だすからな!」
更には、ニュースやネットでも「本をたくさん読めば人生変わる!」「速読で数万冊読むべし!」といった文言が目に入る
川崎「(正直面倒だなー… 別に好きでもないことにどうして、大量の時間を使わないといけないんだよ…)」
そう思い川崎こうへいは、読書家の隣人である碧山アカリのところへ相談に向かった
川崎「ねぇ、アカリ姉ちゃんは、なんでそんなにたくさん本を読んでるの?」
碧山「いきなり来たと思ったら、なにその質問?」
川崎「いいから、答えてよ~」
碧山「そんなの好きだからに決まってるでしょ」
川崎「じゃあ、読書が好きじゃない人は、そんなにたくさん本を読まなくてもいいってことだよね?」
碧山「質問の経緯を知らないことには、安易に答えられない問いね」
川崎「ん-、平たく言うなら、家族や先生にたくさん本を読めって言われるし、世間の風潮も速読とかしてたくさん読めって感じじゃん?…それが窮屈でさ… 他に好きなことがあるのに、その時間を削ってまで本をたくさん読むのは本当にいいことなのかなって思って、質問しにきたんだよ」
碧山「なるほど、そういうことね 多読は本当に良いことなのかどうなのか その話を聞いていて、とある哲学書の話を思い出したわ」
川崎「どんな哲学書ー?」
碧山「ドイツのショーペンハウアーって人が書いた本で、日本では『読書について』と訳されている本よ 本書では多読を有害な行為と主張しているわ」
川崎「多読が有害!? いま皆が言ってることの真逆じゃん!!? なんで多読は有害なの!?」
碧山「読書っていうのは他人にものを考えてもらう行為だからよ 決して自分の頭を働かせている行為とは言えないの」
川崎「な、なるほど… でもそれだけで、有害とまで言えちゃうものなの?」
碧山「いい質問ね 本書の後半で分かることだけど、ショーペンハウアーがここで想定している本は悪書と呼ばれるタイプの本なの だから、悪書を何も考えずに吸収してしまうと結果的に自分の精神に有害になるって論法をとっているわ」
川崎「つまり、体に悪いものたくさん摂取すると人体に悪影響が生じてしまうのと同じってわけか!」
碧山「その通り そして、世の中には金や名誉だけを目的として書かれた悪書が蔓延しているから、多読をすると有害だと言ってるの ただし、これは裏を返せば良書はたくさん読みましょうということになるし、実際本書でもそう書かれているわ」
川崎「ゲッッ! じゃあ、やっぱり良書は多読しないとダメなの?」
碧山「多読しているに越したことはないと思うけど、無理に良書を多読する必要もないと思うわね 要は悪書を避けるのがショーペンハウアーにとってポイントだから、良書を一冊じっくり読むのもアリだと思うわ」
川崎「なるほど、悪書を避けるのが最優先なのか!」
碧山「えぇ、それに私たちの時間にも限りがあるしね だから、ショーペンハウアーはこんなことを言ってるわ」
「したがって私たちが本を読む場合、もっとも大切なのは、読まずにすますコツだ。」
ショーペンハウアー著 鈴木芳子訳『読書について』、光文社古典、2016、145頁引用
碧山「何を読むかじゃなくて、何を読まないかにもマインドを向けてみる必要があるってことね」
川崎「おー! なんか、だいぶ腑に落ちてきたよ! じゃあ、これから一冊ぐらい良書をじっくり読んでみようと思うから、何が良書か教えてー!」
碧山「古典よ」
川崎「え?」
碧山「古典」
川崎「古典ってアカリ姉ちゃんがよく読んでる、難しそうなあの古典?(震)」
碧山「えぇ、ショーペンハウアーの主張を読み解くに、良書と言えるのは、古典的な著作のことを指してるわ」
川崎「ボク、ソンナムズカシイホン、ヨメナイヨ…」
碧山「大丈夫よ 古典と言ってもジャンルは広いから簡単なものもあるわ それこそ、この『読書について』は比較的読みやすいものよ」
川崎「ほんとに!?」
碧山「えぇ、見ての通り約150頁の本だから分量的にも優しめよ 興味があるなら貸してあげるわ」
川崎「やったー、ありがと! ちゃんと読んで返すね!」
そう言って早速読むべく、アカリの宅を後にするのであった
〈つづく〉
〇プチ解説
『読書について』は、ショーペンハウアーが晩年に書いた『余禄と補遺』の、読書に関する部分を抜き出して編集されたものであり、『読書について』という独立した原著があるわけではありません。また彼は”多読有害説”を唱えると同時に、「本とはじっくり血肉化させていく」ものと考え”再読の重要性”も訴えました。
参考文献
ショーペンハウアー著 鈴木芳子訳『読書について』光文社古典新訳文庫、2016
伊藤貴雄「ディスカッションを用いた哲学授業 ショーペンハウアーの読書論を教材に」、2017(創価大学・創価女子短期大学学術機関リポジトリ (nii.ac.jp) )
アバタロー「【15分解説】読書について|ショウペンハウエル ~世界的名著に学ぶ最高の読書術~」( https://youtu.be/DZiUk0Gw1gY )最終閲覧日2023/7/30