物語でサクッと イマヌエル・カント『啓蒙とは何か』#3

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〇登場人物紹介  

 

黒島よしのぶ  

いつも黒色ベースの服装に黒縁眼鏡を基本装備とした渋み溢れる人物。大学の先生らしく、近くのカフェでコーヒー片手に哲学書を読んでいることが多い。  

 

★碧山アカリ  

趣味で哲学、文学、心理学といった人文書を読み漁っているお姉さん。黒髪セミロングに切れ目とクールな見た目だが、困っている人を見ると放っておけない性格。  

 

★川崎こうへい  

アカリのお隣の家に住む中学生。学校や両親との関係などなど年相応の悩みをもっており、アカリが良き相談相手になっている。  

 

藤山リカ  

社会人一年目の新卒。やや神経質だったり社会人一年目であったりと、悩みが絶えない。カフェで偶然知り合った黒島先生によく相談ごとをもちかける。  

★マークは今回のストーリーで登場する人物 

 

 

〇大人になるってどういうこと?(ストーリー編) 

 

川崎こうへいの通う中学校にて男子生徒達がふざけ合って騒いでいる 

 

女子生徒A「ほんと、このクラスの男子って子供よね~」 

 

女子生徒B「ほんとね~」 

 

女子生徒A「私は大人っぽい雰囲気の人がタイプだから、うちのクラスの男子じゃ恋愛対象外ね~」 

 

女子生徒B「年上のいい人探すしかないわね~」 

 

女子生徒A「だよね~、でもそういう雰囲気の人は、めっちゃモテてそう」 

 

女子生徒B「それは間違いないわ~」 

 

川崎「(なるほど、子供っぽいより、大人びてる人の方がモテるのか!)」 

 

放課後、小腹が空いた川崎こうへいは、近くのハンバーガーショップへ 

 

川崎「とりあえず、大人っぽさを出すために、ドリンクをコーラからブラックコーヒーに変えてみたけど… 苦くて飲めない…」 

そう呟いて渋々と砂糖とミルクを大量投下する 

 

川崎「早く大人になりたいな~~~」 

 

碧山「コーヒー飲めたぐらいで、大人になんかすぐなれないわよ」

 

川崎「うぉっ!? ビックリした、いきなり後ろから声かけないでよ、あかり姉ちゃん!」 

 

碧山「ごめん、ごめん、驚かせるつもりはなかったのよ」 

 

川崎「まぁでも、ちょうどいいや、ちょっと話きいてよ!」 

と言って、席を共にすることになる 

 

川崎「コーヒー飲めても大人になれないなら、どうすれば大人になれるの? なんかそういう話してる哲学書はないの?」 

 

碧山「あるにはあるわよ」 

 

そう言ってブラックコーヒーを飲むあかり 

 

川崎「ほんとに!? 教えて、教えて!」 

 

碧山「そうね、じゃあまずは、「大人」と反対の「子供」、つまり、「未成年」の状態がどんなものかを考えてみましょ」 

 

川崎「未成年の状態か… 成人しているか、そうじゃないか…とか?」 

 

碧山「年齢は確かに分かりやすい例だけど、成人してるけど子供っぽい人もいれば、未成人だけど大人びてる人もいるでしょ だから、年齢よりかは内面的な部分に目を向けた方が適切ね」 

 

川崎「内面的な部分かー… すぐには思いつかないね…」 

 

碧山「えぇ だけど、そうやって考えようとしているのが、まさにポイントよ」 

 

川崎「考えることがポイント? ちゃんと考えてるかどうかってこと?」 

 

碧山「正確には自分の頭で考えることができているか、できていないか、これが大人と未成年の状態を分けるものだって、哲学者のイマヌエル・カントは言っているわ」 

 

川崎「あー! 確かに子供って後先考えずに行動にしちゃうイメージがあるもんね!」 

 

碧山「その通り まさにそういった話を彼の『啓蒙とは何か』っていう本でされているの」 

 

 

川崎「け、啓蒙? なにそれ?」 

 

碧山「啓蒙は、カント曰く―」

 

「人間がみずから招いた未成年状態から抜けでることだ。」

カント著 中山元訳『永遠平和のために/啓蒙とは何か』光文社古典新訳文庫、2020、10頁引用

 

碧山「って冒頭で定義しているわ 要は、啓蒙っていうのは大人にるってことね」 

 

川崎「なるほど!啓蒙が大人になるってことなら、さっきの話と合わせると、啓蒙っていうのは、自分の頭で考える人間になるってことか!」 

 

碧山「よくできました まぁ、そうは言っても自分の頭で考える人間になれっていきなり言われても、難しいものだけれどね」 

 

川崎「それは、うん… そうだね…」 

 

碧山「だからせめて、自分は今ちゃんんと物事を考えることができているかどうか、そこをちゃんと内省していくことが大事なのかもしれないわね」 

 

川崎「「ちゃんと考えていると言えるかを考えてみる」ってことか! すごい発想だね! っていうか、自分で考えることを推してるところは、この前あかり姉ちゃんに借りたショーペンハウアーの『読書について』と似ているね!」

 

碧山「いい所に目を付けたわね カントは、ショーペンハウアーよりも前の時代にあたる哲学者で、ショーペンハウアーは非常にカントの本を読み込んでいた哲学者なの だから関係性はあると思うわ」

 

川崎「そうなんだ! 色々勉強になるな~」 

 

碧山「それはよかった じゃ、私はそろそろ帰るけど」 

 

川崎「ありがと! 僕は宿題してから帰るから、先に帰って大丈夫だよ!」 

 

碧山「あんまり遅くならないうちに帰りなさいよ それじゃあね」 

 

川崎「バイバーイ! よし、これで明日からモテモテ学校生活の始まりだ!」 

 

碧山「(モテモテ???)」 

 

数日後、学校にて 

 

女子生徒A「年上の先輩と付き合えちゃったー!」 

 

女子生徒B「凄いじゃん、おめでとう~」 

 

女子生徒A「ありがとー! もし年上の人がタイプなら先輩の友達紹介してあげるからいつでも言ってね!」 

 

女子生徒B「ありがとう~ でも私は正直、子供っぽさのある男の子の方がなんか好きかな~」 

 

川崎「(え…?)」 

 

女子生徒A「そうなんだ! 確かに子供っぽい感じが好きって人も多いって聞くもんね!」 

 

川崎「(え…え…?)」 

 

女子生徒B「そうらしいわね~、ライバルが多くなっちゃうかも~」 

 

そんな女子の恋バナを聞きながら困惑が隠せない川崎こうへいであった

 

〈つづく〉 

 

〇プチ解説 

「啓蒙」という言葉は、国や哲学者によってその意味合いが異なります。例えば、フランス啓蒙は「旧制度の打破を準備した思想運動」として知られています。一方、カントを代表とするドイツ啓蒙は、先入観や迷信を批判し、理性的な思考を奨励する「人の内面の革新運動」としての側面が強いです。この背景には、活版技術の発展により書籍が広まった結果、人々が書籍の内容を独自に解釈するようになったことが影響しています。

参考文献 

カント著 中山元訳『永遠平和のために/啓蒙とは何か 他3編』、光文社古典新訳文庫、2020 

廣松渉他編著『岩波哲学・思想辞典』、岩波書店、2020

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