物語でサクッとカール・マルクス『経済学批判』(序言)#11

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〇登場人物紹介  

★黒島よしのぶ  

いつも黒色ベースの服装に黒縁眼鏡を基本装備とした渋み溢れる人物。大学の先生らしく、近くのカフェでコーヒー片手に哲学書を読んでいることが多い。  

碧山アカリ  

趣味で哲学、文学、心理学といった人文書を読み漁っているお姉さん。黒髪セミロングに切れ目とクールな見た目だが、困っている人を見ると放っておけない性格。   

川崎こうへい  

アカリの隣の家に住む中学生。学校や両親との関係などなど年相応の悩みをもっており、アカリが良き相談相手になっている。  

★藤山リカ  

社会人一年目の新卒。やや神経質だったり社会人一年目であったりと、悩みが絶えない。カフェで偶然知り合った黒島先生によく相談ごとをもちかける。  

マークは今回のストーリーで登場する人物 

 

 

〇経済と私たち(ストーリー編) 

会社の休み時間

藤山「(会社の休み時間中に本を読むようになったんだから、わたし大分成長したな~)

黒島との出会いをきっかけに本を開く習慣を身につけた藤山は、会社の休憩時間中にも少し本を読むようにしていた

同僚「藤山さん、最近よく本読んでるよね~」

藤山「うん!習慣になったせいで、隙間時間があるとつい本を開けるようになっちゃった!」

同僚「今時なかなか珍しいよね~ 私も色々気になる本はあるけど、本要約サイトで済ましちゃってるかも」

藤山「ほ、本要約サイト?」

同僚「うん、本要約サイト! 聞いたことない? 結構いろんなサイトもあって、気になる本の要約が載ってるの!」

藤山「そ、そんなのあるんだ… それって流行ってるの?」

同僚「結構流行ってると思うよー? やっぱサクッと勉強できてコスパいいしね!」

藤山「コスパ… コスパがいいのか…」

帰り道の電車

乗客A「昨日、サブスクビデオで〇〇ってアニメ見てさー」

乗客B「あ!私も見てるよ!面白いよねあれ!」

藤山「(私も最近丁度見たアニメだ)」

乗客A「話の数が多いから、早送りで見たんだけどー」

藤山「(!? 早送りで見る!?!? )」

乗客B「あー、私はいつも早送りでみてるよ~、そっちの方がコスパいいしね~!」

藤山「(ここでも、コスパ!?)」

友人との食事の席

藤山「最近あちこちで、「コスパ」って言葉をよく聞くんだけど、あれってなんなんだろ」

友人「あー、私もめっちゃ聞く~ 上司とかいつも「コスパ良く仕事しろー!」ってうるさいし(笑)」

藤山「コスパってそんなにいいものなの?」

友人「いいものなんじゃないの? 少なくとも会社においては、コスパ良く仕事することが利益に直結するわけだし、日常だと空き時間が増えて嬉しいだろうし?」

藤山「そうなのかな~(モヤモヤ)」

 

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いつものカフェにて

藤山「っていうことがあったんです! 先生、なんで皆コスパ至上主義みたいになってるんですか!?」

黒島「な、なんででしょうかね(苦笑) でも若い人で「コスパ主義」に違和感を覚えている藤山さんはかなり少数派かと思われます」

藤山「じゃあやっぱり、マジョリティーなのは「コスパ主義」なんですか! なんでそうなるんだろ…経済の名のもと社会が「コスパ」ばかり言うから、日常生活の方にもコスパ思考が染みついちゃったとか?」

黒島「ほう、なるほど、下部構造的なお話ですか?」

藤山「か、カブ? いや、適当に思ったことを言っちゃっただけなんですが(汗) なんですかそれ?」

黒島「おっと、それは失礼しました 「下部構造」というのは、カール・マルクスが提唱した有名な考え方で、下部構造とされる経済制度が、人々の意識やイデオロギーとされる上部構造を規定しているのではないか、というお話です」

藤山「経済制度が私たちの意識を規定する… 確かに、資本主義社会だと自然とコスパ思考に行きつきそうだし、本当にその下部構造の考え方が正しいなら、私たちの意識にコスパ思考が広がるのも納得がいく…」

黒島「実際のところ、「コスパ」あるいは「タイパ」と言われているものたちが、下部構造の観点から説明できるのかは、私の方からは断言できません だけど、経済構造が私たちのものの考え方を規定するんだということは、マルクスの主張的には事実です」

「物質的生活の生産様式が、社会的、政治的、および精神的生活過程全般を制約する。人間の意識がその存在を規定するのではなく、逆に、人間の社会的存在がその意識を規定する。」

マルクス著 宮川彰訳『『経済学批判』への序言・序説』、新日本出版社、2011、14頁引用

黒島「これがマルクスの『経済学批判』「序言」でされている下部構造の実際の説明文ですね」

藤山「この物質的生活の生産様式っていうのが、「経済制度」ってことですよね?」

黒島「その通りです ここで経済制度と言わずに、生産様式という言葉を使ってるのにはそれなりの意味があって、実は「下部構造」という構造にも層があると言われています」

藤山「下部構造のなかの下部構造のようなものがあるってことですか?」

黒島「その通りです 一番の土台、つまり、下部構造のなかの下部構造は「生産力」です そして次に「生産諸関係」、最後に「経済的機構」というような図式ですね」

藤山「「生産力」、「生産諸関係」、「経済的機構」、の順と… 下部構造と一口に言っても、深くみれば三層構造になってるんですか なかなか複雑な…」

黒島「えぇ、なかなか複雑です だから、その影響力というものが見えづらいということは考えられそうですね なので、なぜ皆コスパ思考なのかという話に戻るなら、こういった複雑なメカニズムが働いているからだという可能性はゼロだとは言えないでしょうね」

藤山「なるほど…気づかないうちに凄い難問について考えていたんだ私…」

黒島「試しに本書の『経済学批判』の「序言」読んでみますか?「序言」だけなら数十ページで済みますので」

藤山「そうですね!せっかくなので、読んでみたいと思います!」

黒島「是非ぜひ こういった古典はコスパ思考じゃ読めない味わい深いものなので、今の時代我々はかなり贅沢をして生きているのかもしれませんね(笑)」

〈つづく〉

 

〇プチ解説

カール・マルクスの有名な考え方の一つが今回ご紹介した「下部構造理論」です。この話をしている代表的な著作は、『経済学批判』(の「序言」)であり、後の主著『資本論』の下敷きのような位置づけにもなっている重要著作です。下部構造の話からマルクスが促したかったのは、「変革」です。つまり、下部構造(=経済制度)が私たちの生活を大きく規定しているのだから、来るべき時には経済体制を変えなくてはいけないということ。それがいわゆる「共産革命」と称されているものです。

 

参考文献

マルクス著 宮川彰訳『『経済学批判』への序言・序説』、新日本出版社、2011

白井聡著 『マルクス 生を飲み込む資本主義』、講談社現代新書、2023

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