物語でサクッと J・モーティマー・アドラー『本を読む本』#5

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〇登場人物紹介  

★黒島よしのぶ  

いつも黒色ベースの服装に黒縁眼鏡を基本装備とした渋み溢れる人物。大学の先生らしく、近くのカフェでコーヒー片手に哲学書を読んでいることが多い。  

碧山アカリ  

趣味で哲学、文学、心理学といった人文書を読み漁っているお姉さん。黒髪セミロングに切れ目とクールな見た目だが、困っている人を見ると放っておけない性格。  

川崎こうへい  

アカリのお隣の家に住む中学生。学校や両親との関係などなど年相応の悩みをもっており、アカリが良き相談相手になっている。  

★藤山リカ  

社会人一年目の新卒。やや神経質だったり社会人一年目であったりと、悩みが絶えない。カフェで偶然知り合った黒島先生によく相談ごとをもちかける。

 

★マークは今回のストーリーで登場する人物 

 

 

〇本選びのコツについて(ストーリー編) 

とある書店 

藤山「(黒島先生にいろいろ本を教えて貰ったんだし、せっかくだから買っておこう!)」 

そう思い、雑誌や漫画と合わせて、マキャヴェリ『君主論』と、ルソー『人間不平等起源論』を手に取る 

 

藤山「(そうだ!これを機に他にも何か哲学書買ってみよっ!)」 

 

しかし… 

 

藤山「どういう本かもわからないし、種類も多すぎる!!! どれ買えばいいの!?何を買えばいいの!?!?」 

 

 

「っていうことがあったんです先生…(^^;)」 

 

そう言っていつものカフェで黒島に相談をしにきた藤山。

 

黒島「確かに、多すぎて迷いますし、タイトルが意味不明な本もこの分野ですと多いですからねー(汗)」 

 

藤山「そうなんですー… 読書初心者にはハードルが高すぎました…」 

 

黒島「では、そんな藤山さんの悩みを助けてくれる本を今日も紹介しておきますか(笑)」 

 

藤山「まってました! お願いします!」 

 

黒島「いえいえ ではその本というのは、アドラー&ドーレン著『本を読む本』です」

 

藤山「変わったタイトルですね どんな内容なんですか?」 

 

黒島「まずジャンルとしては、いわゆる読書術の本ですね 本書では、読書の段階を四つに分けており、「初級読書」「点検読書」「分析読書」「シントピカル読書」とあります」 

 

藤山「なんか、ややこしいですね… 私には初級読書ぐらいしかできない気がするんですけど…」 

 

黒島「初級読書はもうできていると思いますよ この読書が意味するのは、文字や文法と言った国語的な読みの読書です なので、これはさておき、今の藤山さんに必要そうな点検読書の話をしましょう」 

 

藤山「点検…ですか… 何を点検するのでしょう?」 

 

黒島「ここで点検するのは、今手に持っているその本が熟読するタイミングであるかを点検する読書法です なので、これができれば書店で本を上手く取捨選択できるようになれますね」 

 

藤山「なるほどー! じゃあ、さっそくその点検読書の方法を教えてください!」 

 

黒島「点検読書は、「拾い読み」「表面読み」という二つの読み方で構成されているのですが、まず最初に行うのは、「拾い読み」の方です」 

 

藤山「拾い読みですか 聞いたことはある言葉です!」 

 

黒島「この拾い読みは、ある程度どんな内容の本であるか、著者の主張は何であるか、を知ることを目指します そのためには、少しその本を読んでみる必要があるわけです」 

 

藤山「なるほど! じゃあ適当にパラパラめくってみたらいいわけですね!」 

 

黒島「それも面白いと思いますが、ここでは、もう少し的確なアドバイスがされています ①表題と序文②目次③索引④帯やカバーなどの宣伝文句⑤議論の要になっている部分⑥最後のページや最後の章 この六つの部分を読んでみるとよいと本書では主張されています」 

 

藤山「なるほどー…一つ目と二つ目、あと四つ目の帯やカバーは分かるんですが、他の三つはー…」 

 

黒島「三つ目の索引に関しては、たくさんの語句が列挙されているので、そこから本の内容を推測できたりします それに、頻繁に使われている語句は重要語句だと察知することも可能です」 

 

藤山「そういうことですか!!! では、五つ目と六つ目は?」 

 

黒島「この二つは、少しだけ上級向けのテクニックと言われているのですが、要は、目次や索引を使って、重要な部分を推測して、その部分を読んでみる 六つ目に関しては、だいたい本というのは、終わりの方に著者の結論が書かれていたりするので、そこから著者の主張を知ることができるといった意味合いがあります」 

 

藤山「ってことはー、本選を選ぶときは、さっきの六つの箇所を読むために、書店で時間かけて立ち読みした方がいいってことですね」 

 

黒島「私もそう思います なので、書店で本を選ぶときは是非ゆっくりしていってほしいですね」 

 

藤山「わかりました! 今度から私も書店でゆっくり立ち読みしてみようと思います! ところで、点検読書の二つ目にあった「表面読み」というのは?」 

 

黒島「「表面読み」は、とりあえず分からなくても一度全部読んでみる、いわば「通読」のことです」 

 

藤山「ん?通読が点検読書の段階…てことは、一度読んだら終わりということではない?」 

 

黒島「鋭いですね その通りで、表面読みは、読書の序盤の段階であり、これらの点検読書を通して、次の段階である「分析読書」をやってみるかどうかを自分で判断するわけです」 

 

藤山「なるほど、一回読んだら終わりっていうわけではないんですね」 

 

黒島「その本の内容を一回読んで理解するというのは、実は現実的ではないわけです」 

 

「まちがいはむしろ、難解な本を一度しか読まないで、それで多くのものを得ようとしたことである。」

アドラー&ドーレン著 外山滋比古&槇未知子訳 『本を読む本』、講談社学術文庫、2007 、44頁引用

 

黒島「アドラーとドーレンもこのように言っているので、藤山さんも是非、気になる哲学書を見つけて、深めたいようであれば、何度もその本を読んでみてください」 

 

藤山「わかりました! さっそく次の休みに書店で点検読書をして、何度も読みたいと思える本を探してきたいと思います!」 

 

黒島「そうしてみてください 気になる本と出合えて買えるように、今日のカフェ代は私が払っておきます」 

 

藤山「ありがとうございます! また買った本を持って喋りにきますね!」 

〈つづく〉 

〇プチ解説 

今回ストーリーで扱えなかった点検読書の次の段階である分析読書は、三つの段階で構成されており、①本の全体像の把握②本の重要な語句や主張のロジック・論証の把握③その本に対する批評をする、と言ったものです。簡単そうに聞こえますが、これらを高クオリティー・高い解像度で行うところが分析読書の肝です。 シントピカル読書は、その本の内容を上手く取捨選択して読むというテクニックであり、主に大学のレポートなどを書くときに活用できます。

参考文献 

アドラー&ドーレン著 外山滋比古&槇未知子訳 『本を読む本』、講談社学術文庫、2007 

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