物語でサクッと ニッコロ・マキャヴェッリ『君主論』 #4

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〇登場人物紹介  

★黒島よしのぶ  

いつも黒色ベースの服装に黒縁眼鏡を基本装備とした渋み溢れる人物。大学の先生らしく、近くのカフェでコーヒー片手に哲学書を読んでいることが多い。

 

碧山アカリ  

趣味で哲学、文学、心理学といった人文書を読み漁っているお姉さん。黒髪セミロングに切れ目とクールな見た目だが、困っている人を見ると放っておけない性格。  

川崎こうへい  

アカリのお隣の家に住む中学生。学校や両親との関係などなど年相応の悩みをもっており、アカリが良き相談相手になっている。  

★藤山リカ  

社会人一年目の新卒。やや神経質だったり社会人一年目であったりと、悩みが絶えない。カフェで偶然知り合った黒島先生によく相談ごとをもちかける。  

★マークは今回のストーリーで登場する人物 

 

〇目指すべきリーダーとは?(ストーリー編) 

藤山「不安だ… ものすごく不安だ…」 

 

前回、黒島先生のアドバイスにより、他人と自分を比べてしまうのをやめるよう意識して過ごしていた藤山リカ 。

そのおかげでリラックスできたのか、仕事も上手くこなせるようになっていた。

が、しかし ・・・

 

藤山「仕事のミスは減って、徐々にできることが増えていったのは嬉しいけど…」 

 

回想 

上司「藤山さん、最近ミスもなくて、バッチリだね!」 

藤山「ありがとうございます! 最近、変な焦りがなくなって、そのおかげだと思います!」 

上司「それは、よかった! この調子でいずれ、チームリーダーとか任せるかもだから、今後も頑張ってね!」 

藤山「え!? あ、はい、頑張ります!(私がリーダー!?)」 

 

藤山「いつかは、そういうポジションにつく日がくるのは分かってるけど… 未来が不安だ…」 

そんなことを考えながら、黒島先生と出会ったカフェに自然と足が向かう 

店員「いらっしゃいませー、お好きな席へどうぞー」 

 

藤山「(黒島先生は、……いた!!!) 先生ー!隣いいですかー!」 

 

黒島「あぁ、この前お会いした、、、えーと」 

 

藤山「あ!藤山リカって言います!この前は、自己紹介もせず急いで出ていっちゃってすみません(汗)」 

 

黒島「いえいえ、お構いなく 隣、大丈夫ですよ(笑)」 

 

藤山「ありがとうございます! あ、それとこの前お会いした際に頂いたアドバイスのおかげで仕事がとっても順調なんです!」 

 

黒島「それは、よかった 少し気になっていたので」 

 

藤山「本当にありがとうございますー! でも、実は新しい不安要素が発生いたしまして…また、哲学チックなアドバイスいただけますか?」 

 

黒島「哲学チックは分かりませんが、私でよければ(笑)」 

 

そういって藤山は、上司とのやり取りとリーダーを任されることに対する不安を打ち明けた・・・ 

 

藤山「先生、何かリーダーについて教えを説いているおすすめ本とかありますか…?」 

 

黒島「そうですね~、昨今はビジネス書でそういった内容の本は売れているようですが、あいにく私は職業柄、古典的な著作しか分からないので」 

 

藤山「そ、そうですよね…」 

 

黒島「なので、ルネサンス期のイタリアで活躍した政治思想家のマキャヴェリ『君主論』がおすすめになりますかね」

 

 

 

藤山「え!?そこにリーダー論的な話が書いてあるんですか!?」 

 

黒島「そうですね、この本は新しい君主国1において、君主のあるべき姿について論じられている本なので、少しリーダー論の本としても応用できるかもしれません」 

 

藤山「おー!!! じゃあ、さっそくその本の内容を教えてください!」 

 

黒島「わかりました(笑) じゃあ、君主は皆から愛されているのと、怖がられているの、どちらがいいと思いますか?」 

 

藤山「え、そんなの皆から愛されたいので、私は前者がいいです!」 

 

黒島「まぁ、それが自然な感覚ですね(笑) だけど、マキャヴェリは愛されるよりも怖がられている方がいいと書いています」 

 

藤山「な、なんでですか!?」 

 

黒島「それは、人間が変わりやすい生き物だから裏切りをすぐしてしまう、そのことに対する予防策として、怖がられる方がいいと結論づけていますね」 

 

藤山「うーん…言いたいことは、理解できますけど…」 

 

黒島「じゃあ、せっかくだから会社で例えてみましょうか やはり働いていると、邪な気持から少しサボりたいという気は起きるでしょう この時、愛されキャラのリーダーと怖がられるリーダーのどちらが、この気持ちを抑制できるでしょうか?」 

 

藤山「怖がられてるリーダーですよねー だって愛されキャラのリーダーだと許してくれそうだけど、怖がられるタイプのリーダーなら、バレた時を考えると怖くてサボれないです…」 

 

黒島「まさに、マキャヴェリが『君主論』の中で言いたいのはそういうことです 藤山さんはまだ納得できなさそうですね(笑)」 

 

藤山「だって、怖がられるのがいいんだったら、皆から嫌われるようになることを目指さなきゃいけないのかなって思って…」 

 

黒島「なるほど 嫌われるという表現ではないですが、マキャヴェリは『君主論』で、このようなことを何度も主張して注意しています」 

 

 

君主は、愛されはしないまでも、憎悪されることを避けて恐れられるようにならなければならない。」

マキャヴェッリ著 森川辰文訳『君主論』、光文社古典新訳文庫、2017、145頁引用

 

黒島「つまり、愛されるよりかは、怖がれる方がいいけど、絶対に憎まれてはいけない、そう言っているわけです」 

 

藤山「なんだか混乱してきましたが、怖がられるのと憎まれるのは、違うってことですか?」 

 

黒島「その通り 憎まれるレベルになると、やっぱりそれも下の人々はついてこないですから なので、マキャヴェリの言う怖がられる人というのは、威厳のある人というイメージに近いです」 

 

藤山「なるほど!!! ようやく納得できました! けど… 私、威厳なんて持てる気がしないです…」 

 

黒島「実際かなり高度なことをマキャヴェリは言っていると思います ただその威厳というのは、当人の力量から発生するものだと個人的には解釈しているので、藤山さんがリーダーを任せれる頃には、実績もあって威厳がついているかもしれないですよ」 

 

藤山「確かに!!! じゃあ、今まで通りに仕事を頑張っていけば、力量も身について、威厳のあるリーダーになれるってことですか!」 

 

黒島「そうなってるかもしれませんね さて、私はこの後、授業があるのでここら辺で」 

 

藤山「ありがとうございました! また人生相談しにきていいですか?」 

 

黒島「大丈夫ですよ それではまた(笑)」 

 

〈つづく〉 

〇プチ解説 

マキャヴェリは、闘争を「人間的な闘い」と「力による闘い」の二種類に区分しました。前者は法律に則った闘争、後者は野獣的な資質を駆使する闘争です。求められる野獣的な資質は、直接的な暴力に対処できる力強い「獅子」の資質、狡猾さや機知、策略を駆使する「狐」の資質を指します。マキャヴェリは、君主の要件として、これらの資質を巧みに使い分ける力量を強調しました。この考え方は単に古典的な君主の指南としてだけでなく、現代の経営者や管理職など、リーダーシップの指針としても大いに参考となるでしょう。

  1. 新しい君主国というのは、共和制(≒民主制)や、世襲制が行われていなかった君主国のこと ↩︎

 

参考文献 

マキャヴェッリ著 森川辰文訳『君主論』、光文社古典新訳文庫、2017 

鹿子生浩輝著『マキャヴェッリ―『君主論』をよむ』、岩波新書、2019 

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